「ルポ 居所不明児童~消えた子どもたち」刊行

「宅急便でーす!」

ドアホンから、いつも荷物を届けてくれる宅配便業者さん声が聞こえる。

胸の高鳴りを覚えながらダンボール箱を受け取り、周囲に貼られたガムテームをカッターナイフで慎重に切った。

箱の中から10冊の本が姿を見せる。新刊「ルポ 居所不明児童~消えた子どもたち」(筑摩書房/ちくま新書)だ。

送られてきた10冊は、出版に際し版元(出版社)から著者に贈呈されるもの。まだ書店さんやアマゾン等のネット書店には出ていない段階で手にできるのは著者の特権(笑)。

10冊の本には、編集者さんの手紙が添えられていた。今回、私の担当をしてくれたのは、ちくま新書編集部のN編集長だ。

――おかげさまをもちまして、嬉しい見本刷が出来あがってまいりました。なかなか見事な仕上がりです。これもひとえに石川様が命を削ってご執筆くださったおかげかと存じます――。

綴られていた言葉に、ようやく肩の荷が下りた気がした。

どんな仕事のときも、それぞれ才能と個性のある編集者さんにお世話になっている。

特集記事や書籍の発売に際し、心のこもったお手紙やメールをくださる方もたくさんいる。

そのたびに、ありがたいという感謝と、「とうとうここまでたどり着いた」という思いに包まれるが、今回はまた違った感慨を覚えた。

なにしろN編集長と会ったのは、年の瀬も押し迫った昨年12月の仕事納めの夜。

つまり、出会ってから出版までほんの三ヵ月しか経っていない。

以前、ちくま新書から本を出しているのでいわゆるツテはあったが、N編集長とは面識がなかった。

それが、会った途端に「この企画やりましょう!」と即答してくださり、「4月刊行の新書ラインナップに乗せますね」とスケジュールまで決まったのでビックリ。

以降、前回の活動報告にも書いたとおり、怒涛のように取材と執筆に明け暮れていたので、「命を削った」というのはまさに実感だ。

ただし、体重はまったく削れていないのだけど…(汗)。

新刊は、「居所不明児童(きょしょふめいじどう)」についてまとめた日本で最初の、そして現時点で唯一の本になる。

サブタイトルにある「消えた子どもたち」が示すように、学校や家庭から消えてしまい、その後の所在がつかめない子どもの実態、背景をあきらかにしたものだ。

ちなみに、誘拐や事故、事件等ではなく、家庭の事情や親の都合で「消えた」子どもたちを取り上げている。

消えた、と言っても、なぜ? どんなふうに? どこで何をしているの? いくつもの疑問が生じるだろう。

それぞれのケースによって事情は異なるが、本書の中ではたとえば「小学5年生のときから学校に通えず、一家でホームレス生活を送っていた」という少年を紹介している。

家を失い、各地を転々とすることで、「住民票」という公的書類から抹消される。

通常、私たちが学校に通う(義務教育を受ける)際には「学齢簿」という名簿に登録されるが、こうした名簿からも消されていく。

つまり、「この社会や学校に存在する子どもだ」と認識されないまま、教育や福祉、行政支援などを受けられない状況に陥ってしまう。

先の少年の事例で言えば、母親と、のちに母親が再婚する男と一緒に、「ラブホテルの敷地内にテントを張って」夜を過ごしたり、公園や公共施設の軒下で野宿するような日々を送っている。

食べる物にも事欠き、民家の軒先に配達された牛乳や、スーパーの前に停められた自転車のカゴから食品を盗んだりもしていた。

あんまりネタばれさせるわけにもいかないが、過酷な現実に直面した子どもたちが、この社会の片隅に存在している。

取材をつづける中で、私自身、あまりの状況に言葉が見つからず、何度となく原稿を書く手が止まった。

自分の頼りない筆力で、どうやったらこの現実が表せるのだろうか、そう悩んで眠れない夜も少なくなかった。

至らない点はたくさんあるだろうけれど、なんとかこうして形にすることができた。

あとは、少しでも多くの方に読んでいただき、「居所不明児童」と呼ばれる子どもたちの実態を知ってもらえたらと思う。

そして、過酷な生活環境に陥ったまま、どこかで助けを求めている子どもたちに、一刻も早く救いの手が届いてほしいと心から願う。

みなさん、どうか読んでください。

そして、子どもたちの幸せのために少しでも力を貸してください。

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