取材のおまけ

ここ1ヵ月ほどは取材に追われていた。

「取材」というと、「誰かに会って話を聞く」、そんなイメージを持たれるが、必ずしも人に会うだけではない。

たとえば、埋もれた資料を探すというのも取材のひとつ。

…で、私はこの手の「宝探し」的なワクワク感が好きなのだ。

今はネットで簡単に調べられる資料やデータがたくさんある。

その点は感謝というしかないのだが、引用元や内容に確信が持てない場合も結構ある。

そもそも、「昭和」の時代の調査資料などは紙ベースなので、ネット上に反映されていないことが少なくない。

考えてみれば、平成になってからすでに四半世紀も経ったわけで、昭和のデータなど古すぎるといった判断もあるだろう。

でも、「調査開始は昭和〇〇年」などとあったら、やっぱり最初から辿りたくなるのが私のしつこさ。
そんなとき頼りになるのは国立国会図書館。

国内外で刊行された書籍や雑誌、各種新聞、論文、官公庁の資料などが保管されている日本で一番大きな図書館だ。

私もときどき資料探しに出かけるが、難点は「目的のもの」に辿りつくのに時間がかかること。

たとえば厚生労働省から出ている調査資料を調べたいときは、

①館内のパソコンでデータ検索⇒②表示された保管場所に閲覧を申し込む⇒③30分くらい待つと保管場所から指定の資料が出てくる⇒④館内は広いので階段やエレベーターでかなりの移動⇒⑤保管場所のカウンターで受け取る⇒⑥空いている席で閲覧。

…とこんな流れで、ひとつの資料を目にするまで1時間くらいかかってしまう。

おまけに私が探す資料の類は、「一度に3冊までしか閲覧できない」などという制限があったりして、朝から夕方までかかっても必要な資料の半分も揃わない(涙)。

とはいえ、この程度でくじけてはいられない。

ここはずうずうしさを発揮して、刊行元の官公庁に直接当たってしまうのが私のやり方。

あるときは、文部科学省から出ている調査資料を探すため、早速電話で問い合わせた。

代表番号にかけると、「心当たりのある担当部署」につないでくれるのだが、実はここからが大変。

「お役所仕事」とはよく言ったもので、担当部署でも自分の仕事の範囲のことしか知らない。

十中八九、「ここではわかりませんねぇ」と言われるが、再度くじけずに、「では、どこならわかりそうですか。心当たりにつないでください」と食い下がる。

ちなみに私は、「お忙しいのに恐れ入ります」とか、「お手数をおかけして申し訳ありません」などと必ず伝えるようにしている。

相手はエリート公務員、いかにも面倒という感じで横柄な態度の人もいるが、だからってこちらも同じ態度では、動いてもらえるものも動いてもらえないのが世の常。

できるだけ低姿勢で「お願い」してみると、「ちょっとこちらで調べてから、(電話を)折り返しましょうか?」なんて言ってくれる。頭を下げて仕事がはかどるなら、結果オーライなわけだ。

そんな経緯があって、文部科学省に保管されている資料を閲覧するために省内に足を踏み入れた。

実は、省内には立派な図書館があって、一般人でも無料で利用できるのだ。

私だってこんなこと今まで知らなかったけど、それは文部科学省が公にしていないから。

こちらから「省内の図書館を利用してもいいですか?」と申し出れば、あっさりOKがもらえる。

さすがに本家本元だけあって、教育関連の資料の充実ぶりには目を見張る。

昭和の時代からきっちりと整理された資料棚を目にした途端、「わーい!」と心の中で叫んでしまった。
早速、資料をわんさか閲覧し(一般人はコピーできないけど)、せっせとメモを取り、山ほどの蔵書を眺めながら「ああ、毎日でもここに通いたい」とうっとり…。

おカタイ書籍だけでなく、週刊誌(文春や新潮はもちろんあります)や月刊誌、専門誌などもキラ星のごとく揃っている。

おまけに、昼休み以外は文科省職員の利用もほとんどなく、広い館内を独占状態(笑)。

これだけの蔵書や貴重な資料がありながら、一般人には知られていないっていうのは、かなりもったいない話だと思うけど…。
  
半日かけてすべての資料を確認し、図書館を出ると、「見学ルート」なる表示が目に留まった。

何事? と思いつつ近づいてみると、「一般人の見学」のために、博物館みたいなスペースが用意されている。

所々、専門の解説員のような人が控えていて、「ここは昔の大臣執務室の再現です。壁の素材は…」などと説明してくれるのだ。

図書館だけでもビックリしたが、こんな施設まであったとは?!

正直、税金使ってるんだから、もっと積極的にPRしようよ、と思っちゃう。

気分はほとんど小学生の社会科見学といった感じで、一通り見て回った。教育、科学、スポーツ、宇宙開発(これも文科省の事業だったのね)などと各分野に分かれた部屋があり、最近話題の東京オリンピック関連もドーンと展示されていた。

私がふと足を止めたのは、学校給食の展示。

昭和四十年代の懐かしい給食(もちろん作り物)が、間接照明の灯りでやけにおいしそうに感じられる。

時計を見ると、すでに午後2時過ぎ。

お昼ご飯も食べずに資料に没頭していたので、さすがにお腹がすいた。

それでも、自分の足を使って資料という名の宝物を探し、「おまけ」のような出来事に接したあとは、心のほうは確かに満たされている。