夏の終わりの北海道

8月の最終週、北海道を2往復した。

まずは火・水の1泊2日で札幌へ。つづいて土・日の1泊2日で苫小牧。

どちらも、児童虐待防止や子どもの育ちをテーマにした講演会を行った。

苫小牧市は今、児童相談所の誘致活動を行っている。17万人余りの人口を有しながら、児童相談所は車で40分ほどの室蘭市にある。

それでいて、室蘭児童相談所が扱うケースの半分以上が苫小牧市の事案だという。

おまけに、室蘭児童相談所がカバーする範囲は遠くえりも岬がある地域まで。室蘭からえりも町までは車で片道5時間もかかるというから、往復するだけで1日が終わってしまう。

これが観光だったら、北海道は広いなぁとのんきに構えていられるだろうが、児童虐待のように緊急性のあるものは、早期かつきめ細やかな対応が必須だ。

車で延々走らなければ現場に辿りつけないようでは児相側も大変だが、「助け」を求めている子どもや親にとってはあまりに心もとない。

そこで苫小牧市が児童相談所の誘致活動を行い、広い地域をできるだけカバーできるような体制作りを目指している。

私の講演は、その活動の一環として、苫小牧青年会議所の皆さんが計画してくださった。

会場には800人以上の市民の方が詰めかけて児童相談所誘致活動への署名を行ったり、私の講演もとても熱心に聴講していただいた。

市民ひとり一人の力を合わせよう、そんな熱気が伝わってきたが、児童相談所の設置にも、もちろん虐待対応にも、予算と人員が必要になる。

児童相談所を管轄するのは都道府県か政令指定都市。苫小牧の場合なら、北海道が設置するか否かの判断をすることになる。

どこの自治体も、行政予算と人員の削減を迫られているせいか、なかなか重い腰を上げようとしない。

削れるところを削るのは当然としても、「必要なこと」にお金をかけるのは大切じゃないかと思うのだけど、年々ふくらむ社会保障費(年金、医療、介護など)に、多くの自治体があっぷあっぷしている…。

日本では、社会保障費のうち子どものために使われているのがわずか3%に過ぎない。

諸外国と比べて、とても低い数字だ。

こんな状況で、「アベノミクスの柱は少子化対策、子育て支援」とか言われても、ほんとかよ? と嘆息してしまう。

最近では、小学校の児童全員にタブレットを支給して「ICT教育」を行う学校があったりするけど、そんなことより先生の数を増やすとか、給食費を無償にするとか、ほかにやることあるんじゃないだろうか。

児童手当を「親」に支給するのもいいけれど、もっと直接子どもに届くような、子どものために使われるような仕組みを作らなくていいのだろうか。

私は個人的に、子どもが幸せじゃない国は滅ぶ、と思っている。

子どもが伸び伸びと、安心して、「子どもらしく」生きられる環境がなかったら、結局のところおとなもたいして幸せじゃないと思っている。

さて、苫小牧の講演会場には、苫小牧市のゆるキャラ「とまチョップ」が来ていた。

苫小牧の「とま」、白鳥の「チョ」、ホッキ貝の「ッ」、それにハスカップの「プ」を組み合わせたという、ちょっと強引な(笑)ネーミング。

でも、とてもかわいくて、思わず笑ってしまうようなゆるキャラだ。

会場に集まった方たちは、とまチョップを見つけてみんな笑顔。とりわけ子どもたちは、こぼれるような笑顔を見せていた。

この笑顔を守るために、おとなである私たちは何ができるのか。

そう問いかけられている気がしつつ、私も「とまチョップ」にツーショット写真をおねだり(苦笑)。

講演を終えて新千歳空港へと向かう車中、夏の終わりの北海道の空は青く澄んでいた。

実りの秋はすぐそこ。

ひとつの街の「誘致活動」にも、確かな実りが訪れてほしいと切に願っている。