入試問題になるということ

今年の中学入試と大学入試の国語問題に、著作の中の3作品が採用されました。

短編小説集『小さな花が咲いた日』(ポプラ社)に収録されている「愛されぬ子」、「靴」。そして、『暴走育児』(ちくま新書)です。

3年前の平成20年、『小さな花が咲いた日』が高校入試問題になって以来、中学入試や大学入試、それに授業で使う副教材や塾のテキスト、練習問題として、計6作品が採用されています。

この6作品は、試験問題として使用される際、著者である私には何も知らされません。

試験問題や教材使用は、著作権保護の対象外で、要は自由に問題を作っていいのです。

そもそも、試験問題を作成した時点で著者に確認をもらったりすると、「漏えい」の恐れもあります。

そのため、書いた私は蚊帳の外に置かれ、自分の作品が入試問題になっていることなどまったく知りません。もちろん、作品の使用料はいただけません。

ただし、これらの入試問題を参考書(過去問題集)に収録したり、テキストとして有料販売する場合は「著作権使用許諾」というものが発生します。

著作権者(私)の許可が必要になり、著作権使用料が支払われます。

著作権使用料は日本文藝家協会の規定に基づいて算出されているのですが、はっきり言ってスズメの涙です…。

今まで採用されたのは6作品ですが、これを過去問題集に収録したい、テキストで使いたい、という出版社や塾はたくさんあります。

たとえば「愛されぬ子」という作品が20県の高校入試問題で使用されたら、その各県で「県立高校過去問題集」などが販売されるので、著作権使用許諾の申請も20件寄せられます。

さらに、入試問題を学校の副教材や塾のテキストとして使用するなど、次々と許諾申請が寄せられることになります。

申請数が多い場合は事務処理だけで大変なことになるので、出版社に代行を頼んでいます。

それでも最終的に著者である私の許可は必要なので、申請書類に署名、捺印、郵送と、この時期は結構追われてしまいます。

さて、入試問題ですから、気になるのはやっぱりどういう問題が作られて、そしてどんな解答が「正解」なのか、ということ。

よくありますよね? 「この作品の中で、主人公はどのように描かれているか、次のアからエまでのうち、正しいものを選びなさい」みたいな問題。

主人公を描いたのは当然私です。…が、解答しようとすると、これが微妙なんです。

「イのような気もするけど、やっぱりウかなぁ?」とか、肝心の自分がしっかり答えられない!

恐る恐る解答集を見て、「ああ、よかった。あってた」と胸をなでおろす、なんてこともよくあります。

もっと困惑するのは、「作者はここで何を言おうとしているのか、次のアからエまでのうち、正しいものを選びなさい」といった問題。

作者=私の「言おうとしていたこと」が、アからエの中には見当たらない、という「?」のこともあったりして…。

もっともそれは、作品を読んだ人(入試問題を作った人)の解釈ですし、どんなふうに受け取られても自由というのが本のよさです。

でも、そうなると逆に、「自由な解釈」と「正解」というものが矛盾することにもなりますが…。

主人公がどう描かれていたか、作者が何を言わんとしたか、本当は自由に、読んだ人がそれぞれの解釈で受け取れたらいいのでしょう。

それでも入試問題には「正解」があって、しかも「点数」になります。

その点数が、たくさんの人の合格、不合格を、人生の進路を決めていくわけです。

そう思うと、許諾申請と一緒に届く入試問題、そこに収録された自分の作品が、なんだか手の届かない存在になったような気がします。