1,000円の価値
日本赤十字社が、NHK「海外たすけあい」を通じて行う『Donashop』(ドネーショップ)のチャリティーイベントに参加しました。
私が伺ったのは東京駅の「KITTE」で行われたイベント(11月29日~30日)ですが、Webの『Donashop』は12月25日まで開催中。
興味のある方はぜひアクセスしてみてください。
http://jrc-tsudukeru.jp/donashop/top.html
ちなみに『Dona』は、ドネーション(寄付)の略だそう。
『Donashop』は「寄付できるお店」ということです。
英語が読めない私は、ここで日赤の広報担当者にツッコミ。
「えっ? これ、ドネーって読むんですか? 私はドナショップって読んでました」
「もっと読みやすく、意味もわかりやすくしてくれたほうが、寄付しやすいと思うんですけどねぇ」
広報の方は、内心「なんだよ、このおばちゃん」と思ったかもしれませんが、笑顔をたやさずおとなの対応をしてくださいました(笑)。
さて、肝心の『Donashop』には、シリアやバングラデシュの避難民の方への支援グッズが並べられていました。
ペットボトルの水、食料用の豆、医薬品など「いかにも」のグッズだけでなく、懐中電灯やブランケット(毛布)、キッチンセット、衛生指導支援など多様なものが並んでいます。
それぞれのグッズの前には「1,000円」、「3,000円」、「5,000円」などの価格表が置かれ、小さな説明ボードが添えられていました。
たとえばブランケットの前には、『3枚 1,000円』とあり、つづけてこう書かれています。
――バングラデシュ避難民を寒さから守るほか、乳幼児を直接地面に寝かせることで起こる頭部膿瘍を防ぎます――。
ブランケットが寝具や防寒用に使われるのはわかります。
加えて、「赤ちゃんのおくるみ」や、小さい子どもを地面に直接寝かせないための「保護マット」としての機能も果たす、ここに私はハッとしました。
戦火や災害、社会的混乱によって故郷を離れざるを得ない避難民の方々は、着の身着のまま、とりあえずの身の回り品だけしか持っていません。
避難の道中で、わずかな身の回り品さえなくしてしまうこともあるでしょう。
何もない中、赤ちゃんを地面に寝かせざるを得ないとして、でも赤ちゃんの頭はとても柔らかい。
そのままでは赤ちゃんの頭が傷つき、化膿性の炎症が起きる危険性があるわけです。
でも、ブランケットがあれば、こうした状況から子どもの命を守ることができる。
そのブランケット3枚を、1,000円の寄付で支援する、これが説明ボードの趣旨なのです。
「なるほど…」
いろんなグッズの前で説明を聞くたび、私はこの言葉を発していました。
「1,000円」や「3,000円」をパッと見ただけでは、正直意味がわからなかったからです。
この点を広報の方に尋ねてみました。
「価格表を見ただけでは、正直意味がわかりにくいですけど、これはどういう意図なんですか?」
「実は、あえてそうしているんです」と広報の方。
「この場(チャリティーイベントの会場)には、実際に海外で支援活動をしている日赤のスタッフがいます。寄付や支援に興味のある方は、まずは彼らと会話していただきたい。そうして実際のエピソードや体験談を聞き、ああそういうことか、と納得の上で寄付をお願いしたいんです」
「なるほど…」と、私はまたも発していました。
お金を出すことはできても、そのお金が誰に、どのように使われているのかわからないと、なんとなくモヤモヤするものです。
いいことをしている、そんな自己満足は得られても、自分の行為が具体的に何につながるのかが見えないと、結局のところ「他人事」のままで終わってしまうかもしれません。
『Donashop』のイベント会場で、私は困難な状況におられる方々の現実を、ほんの少しですが知りました。
その「知った」ことをもとに、あらためて支援グッズを見てみると、ああこれがこの人にこんなふうに役立つんだ、とリアリティを感じられます。
もちろんそこで感じるリアリティは砂粒ほどの軽さであり、風船程度の軽さでしょう。
実際の現場は極めて過酷で、想像を絶するほどの世界が広がっているはずです。
けれども、たとえわずかでも知ることで、それは次の何かにつながっていくかもしれません。
チャリティーイベント会場からの帰り道、ふと亡き母の言葉を思い出しました。
「1万円札を3枚体にかけても、ちっとも温かくない。でもその3万円で羽毛布団を買えば、何年でも、毎晩あったかく寝られる。そんなふうに、お金は生きた使い方をしなさい」
質素で倹約家の母でしたが、今にして思えば「お金を使う」ことへの真理を教えてくれていたように思います。
亡き母の言葉は、1,000円で3枚のブランケットにも通じます。
誰かが、何年も、ずっと温かくいられるとしたら、その価値は価格以上の確かさがあるでしょう。
知らなかったことを学び、またいろいろな思いが浮かぶ、そんな『Donashop』での体験でした。