100万越えのPV

先月、文春オンライン(文藝春秋社のニュースサイト)で、『毒親介護~高齢になった毒親が奪う子どもの人生』という記事が3本配信された。

公開後の1週間で合計PV数(閲覧数)が100万を超え、担当編集者から「驚異的な数字です!」と興奮気味のメールが来た。

ヤフーニュースなど外部配信のPV数も加わると、この何倍もの数字になるという。

ちなみにヤフーニュースの「雑誌アクセスランキング」では、公開日に3本中2本の記事が第2位と第3位を獲得。

「スクープやスキャンダル系以外で、ここまでの数字を取れるのはスゴイ!」と、さらに編集者は喜んでくれた。

もちろん私もうれしい。

書き手にとって、たくさんの読者に読んでもらえることはこの上ない喜びだ。

一方で、少し複雑な思いもあった。

タイトルからもわかるように、今回の記事は「毒親の高齢化」がテーマ。

子どもを暴力的に支配したり、精神的に抑圧したりするような「ひどい親」が高齢になり、親との関わりや介護に苦悩する子世代の実情を描いたものだ。

この手のテーマが「驚異的」に読まれ、多くの関心を集めるというのは、それだけ苦しむ人がいるからではないか。

そう思うと、単純に喜んでばかりもいられない。

ところで今回の企画を立てたのは、昨年の出来事に遡る。

何人もの男性や女性から、「年老いた親との関係に苦しんでいる」と相談されたのだ。

もともとその人たちとは、20数年前に取材を通じて知り合った。

当時、私は『SPA!』という週刊誌で連載を書いていて、家族関係に悩む人を毎週のように取材していた。

そのころの『SPA!』は30代前後が読者層だったため、取材する人たちもみんなその年代だ。

結婚し、子どもが生まれ、一見幸せそうに暮らしていても、それぞれ家庭の中に複雑な問題を抱えていた。

夫婦の亀裂、DV、ローン破綻、アルコールやギャンブル依存、精神疾患、怪しげなセミナーへの傾倒、児童虐待…。

連載は3年半つづいたので、取材した人たちも相当数に上り、一部はその後もつきあいがあった。

そうして20数年が経ち、当時30代前後だった人たちはみんな中年に。

50代くらいになると、親は70代や80代だ。

つまり彼らは、年老いた親の世話や介護といった問題に直面している。

それも「ふつうの親」ではなく、とんでもなくひどい親だったりする。

昨年相談を受け、久しぶりに会った人たちは、一様にものすごい勢いでしゃべりつづけた。

たぶん、それだけ思いが鬱積して、追い詰められていたのだと思う。

その苦悩や葛藤については記事を読んでいただきたいが、実のところこうした取材はむずかしい。

ものすごい勢いでしゃべってくれるのなら取材もスムーズではないかと思われそうだが、そんな単純な話ではない。

相手の「しゃべりたいこと」とは、自分の怒りや愚痴だったり、親への罵詈雑言だったりする。

一方、私が「聞き出したいこと」は、いつ、どこで、誰が、何をして、どう感じたか、という具体的な情報だ。

いわゆる「5W1H」は、原稿の基本。

ここをつかめないと、わかりやすく深みのある原稿にはならない。

何度も話を聞き、そのたびに構成や表現を変えたりして、かなりの時間を費やすことになった。

なんとか入稿し、配信され、100万PVを超える数字を叩き出したあと、私は一人暮らしをする息子に会う機会があった。

たまには一緒にご飯を食べようと入った居酒屋で、ひとしきり食べたり飲んだりしていると、お店のスタッフさんがやってきた。

「親子なんですか?」とか「どこから来たんですか?」とか、気さくに話を振ってくる。

簡単に応えてしばらくすると、そのスタッフさんが「お店からのサービスです」とお皿を運んできた。

「仲良し親子」と書かれ、似顔絵がデコレーションされている。

ビックリしながらひとまずお礼を言ったが、内心は少し複雑だった。

私と息子が真の仲良し親子かどうかはさておき、世の中には見た目だけではわからない親子の問題が根深くある。

仮に私が「毒親」で、息子がそういう親に悩む子どもだったら、こういう「サービス」にどんな気持ちがするだろうか。

親子だから仲良し、家族だから幸せ。

世の中のありきたりな思考に陰ながら苦しむ人は、もしやそこかしこにいるかもしれない。

100万を超えたPVは、その現実を示唆しているような気もする。

『毒親介護~高齢になった毒親が奪う子どもの人生』
第1回 http://bunshun.jp/articles/-/7661
第2回 http://bunshun.jp/articles/-/7662
第3回 http://bunshun.jp/articles/-/7700