温かな文章
ラグビーワールドカップ2019が終わって1週間が経とうとしている。
44日間にわたる熱戦の間、私もかつてない興奮と感動を味わった「にわか」のひとりだ。
講演や取材のために移動する先々、会う人ごとにラグビー関連の話題で盛り上がった。
たとえば10月の「日本×アイルランド」戦の直後に訪れた静岡市。
当の試合会場は近接する袋井市の「エコパスタジアム」だったが、仕事先の人は「世界にSHIZUOKAの奇跡が伝わった」と大興奮!
私も静岡県出身だから互いに手を取り合わんばかりに喜んで、ひとしきり感動の時間を共有した。
主要な駅や空港では、ラグビーワールドカップやBRAVE BLOSSOMS(日本チーム)の広告物があちらこちらにあった。
ワールドカップの期間中に何度か羽田空港を利用したが、空港内の特設ショップにはいつも人だかりができていて、みんなニコニコと写真を撮っている。
私も「にわか」らしく写真を撮り、グッズを物色し、ついでに日本ラグビー協会公式ファンクラブの入会手続きまで済ませた(笑)。
一過性のお祭り騒ぎで終わらせないために、また自分が得たあらたな喜びを継続するためにも、できる範囲でラグビーを応援していきたいと思う。
とはいえ、典型的な「にわか」だから、まだまだ知らないこと、わからないことも少なくない。
ネットでの情報収集だけでは物足りないと感じて、ワールドカップを特集する雑誌を次々と買っては読みふけった。
いくつも買った中に、ラグビー専門誌の「Rugby Magazine」(ベースボール・マガジン社)なる月刊誌がある。
今回のワールドカップがなかったら、おそらく一生手に取ることなどなかっただろうが、実際に読んでみるとこれがとってもおもしろい!
特に感じたのは、記事を書いている記者やライターの文章のうまさだ。
同業者として勉強になること、参考にしたいことがたくさんあった。
専門の人が書いているんだから、文章がうまくても当然じゃない? と思う人もいるだろう。だが、実のところそう単純な話でもない。
私自身、偉そうなことを言える立場ではないのだが、それを踏まえてあえて言えば、雑誌や新聞、書籍などの出版物の世界はこのところ文章力の低下が目に余る。
売れ筋の週刊誌にもあきらかに「ヘタな文章」が掲載されているし、書いたライター、原稿をチェックするはずの編集者やデスクは何をやってるんだ? と驚くことも増えてきた。
ライター仲間やベテランの編集者との間でもこの手の話題が出て、「どうしたもんかねぇ?」などとそろって頭を抱えていた。
そんな中で出会ったのが「おもしろい」、「うまい」と素直に思える「Rugby Magazine」の記事だった。
いったい何をもって「うまい」と言えるのか、ここでは大きく二つの点を挙げてみたい。
ひとつは「わかりやすさ」、そしてもうひとつは「温かさ」だ。
わかりやすい文章とは、そのとおりわかりやすく書くことなのだが、実際にはとてもむずかしい。
先の「Rugby Magazine」はラグビーの専門誌、つまりラグビー経験者や、長年ラグビーを愛してきたオールドファンが読む雑誌だろう。
彼らにとってはルールや選手の情報、試合の展開などは「十分に知っていること」であり、より専門的な視点やマニア向けの解説が好まれるはずだ。
一方、私のような「にわか」には基本的な知識や解説、なんにも知らない素人向けの情報が必要になる。
つまり、専門性を打ち出すと「にわか」はついてこられず、「にわか」向けにすればこれまでの読者にはつまらない。
このむずかしいバランスを考え、かつ「無理して作ってる感」が出ないような自然な表現、適切な構成をしなくてはならない。
今号はワールドカップ特集のため、おそらく普段よりは「にわか」寄りの構成になっていたと思うが、それにしてもあらゆる記事がわかりやすく、読み応えがあった。
もうひとつの「温かさ」も、文章の端々から感じられた。
ラグビーを心から愛し、応援する人が書いていることが読み取れるが、といって「酔っている」文章ではない。
自分の愛するものを書こうとするとき、ともすれば自己陶酔のような文章になりがちだが、それをしないのがプロの技術。
客観的でありながら、けれども温かく、すぅっと胸に染み入るような文章を書くためには、相応の力が必要なのだ。
…と厚かましくもほんと偉そうなことを述べてしまったが、同業者の文章力を存分に味わって、さらにラグビーを応援したくなった。
流行語大賞にノミネートされた「One Team」は、選手やスタッフ、家族や関係者のみならず、情報発信という形でラグビーを支える人にも当てはまるだろう。
選手に帯同し、試合の裏側や練習の現場に足を運ぶ。
日々の取材を丹念につづけるからこそ、「にわか」にも届く温かな文章が書けるのだと思う。
この記事書いた人、いい仕事してるなぁ。
つくづくそう感じて、手にした雑誌の隅々にまで目を通している。