話す仕事と書く仕事
このところテレビ出演の機会がつづいた。「報道ステーション」のような報道番組、「ひるおび」や「モーニングバード」などの情報系、そして「ホンマでっか!? TV」といったバラエティ。
以前から報道番組にはときどきオファーをいただいていたが、情報系やバラエティは勝手が違う。
出演者に芸能人や有名人がそろっているので、場違いな自分にひたすら緊張し、頭が真っ白…。
収録中はもちろん、終わってからも「空気読めてない自分」に落ち込んでしまう。
テレビ関連の仕事の際は、エクステンションというマネージメント会社にお世話になっている。
「ひるおび」のMCを務める八代英輝さんをはじめ、売れっ子のコメンテーターが所属し、私はその末席に細々と登録している程度。
売れてない=お金にならないので申し訳ないが、それでも収録時には会社のマネージャーさんが同行してくれる。
収録中はスタジオの隅でずっと見守ってくれたり、終了後は「ここがよかった、あそこがウケてた」といったふうに何かと励ましてくれたり…。
マネージャーという仕事柄、あたりまえなのかもしれないが、普段ひとりで行動することが多い私には新鮮な驚きがある。
そしてつくづく、同じマスコミでもテレビと出版は違う世界だなぁと感じる。
テレビの現場には、とにかくたくさんの人がいる。出演者だけでも10人以上いたり、プロデューサーにディレクター、アシスタントを合わせれば軽く20人を超える。カメラマンに音声さん、大道具さんやメイクさんもいるから、なんというか昔の学級会のようにザワザワした雰囲気。
出演者がスタジオに入る際には、「〇〇さん、入りまーす、よろしくお願いしまーす!」と大きな声が上がり、スタジオにいるスタッフがみんな拍手で迎える。要は体育会系のノリ全開だ。
一方の出版業界は、たいてい静か。仮に同じくらいの人数が編集部にいたとしても、せいぜい電話応対の声が聞こえるくらいで基本的にはシーンとしている。
出版の人たちが仕事をしていないわけではなく、パソコンに向かって原稿を打ち込んでいたり、ページレイアウトに合う写真を選んでいたり、耳にイヤホンを当ててテープおこしをしていたり、要は個人で担当していることが違って、各自が「自分の世界」に入っている。
だから、編集部に入っていっても誰にも気づかれないこともよくある。
昔の話だけど、ある雑誌の編集部に打ち合わせに行った際、フロア内にいた誰ひとり対応してくれず、仕方ないので空いているイスに座って担当のデスクを待っていた。
しばらく経ったころ、フロア内にいた人が私を見つけ、いきなりこう声をかけてきた。
「保険の人ですか? そのイスに勝手に座らないでね」
…??? の私だったけれど、要は「保険のセールスレディ」と間違えられていたのだ(汗)。
いや、もうちょっと来訪者に気を配ろうよ、と思ったけれど、今でもだいたいこんな雰囲気で、出版業界は基本的に他者には愛想も関心もない。
別の言い方をすれば、書く仕事(あるいは読み物を作る仕事)は個人の領域が大きく、孤独な作業が多いということだろう。
現に私も、自分の担当編集者以外の人とまったく話したことがないとか、記事を書いている雑誌の編集部を一度も訪れたことがないとか、そんなことはごくふつうだ。
たくさんの人が一堂に会して、みんなが同じ仕事を共有するといった経験はせいぜい企画会議くらい。それも、会議が終われば各自の担当はバラバラで、互いのスケジュールも原稿の内容も関知しない。
基本的にひとり、そんな出版の仕事は寂しくもあり、気楽でもある。
長くその空気に触れたせいか、「ひとりご飯(最近では、ぼっちメシと言うのね)」とか「ひとり飲み」も平気でできるようになった。
とはいえ、もともと私は仲間とワイワイやるのが好きだったはず。
いつからこんなふうに「ひとり」に慣れたのか、ふと我が身を振り返るとちょっと複雑な気持ちになる。