消えた子ども~居所不明児童生徒問題を追って
「居所不明児童生徒」という言葉を知ったのは、今から5年以上前のこと。
最初は読み方もわからず、「いどころ? それとも、きょしょ?」という感じで、資料やデータがどこにあるのかも知らなかった(ちなみに、「居所不明=きょしょふめい」と読みます)。
文部科学省が毎年行っている「学校基本調査」の中に、居所不明児童生徒の数が報告されている。
ただし、文科省に限らず、この手の調査結果というのは本当に見つけにくい。もしかして、「見つからないよう」にしているんじゃないか、と勘繰りたくなるほどだ。
2011年度(平成23年度)に、1年以上所在が不明となったままの居所不明者数は1191人。小学生が855人、中学生が336人にのぼる。
所在が不明ってどういうこと? なんで子どもが行方不明になるの? そういう子どもを誰も探していないの? …と素朴な疑問を持たれる方も少なくないだろう。
私自身、多くの疑問に突き動かされる形で、この問題を取材しつづけてきた。
学校現場、教育関係者、教育委員会、文部科学省など、単独で、地道に、本当にコツコツと取材した。
昨年末、取材で得た情報やデータをもとに書いたのが「ルポ 子どもの無縁社会」(中公新書ラクレ)だ。
手前味噌になってしまうけれど、この本には「えっ?」と絶句してしまうような子どもたちの現実がいろいろと詰まっている。
学校から忽然と姿を消したまま、その後の行方がわからない児童や生徒の問題。
児童相談所が虐待対応をしながら、やはりどこかにいなくなってしまうハイリスク家庭。
路上や公園、スーパーのトイレなどに「捨てられる」子どもたち。
赤ちゃんポスト(こうのとりのゆりかご)が抱える問題。
などなど、ディープな内容なのだが、だからこそこうした問題を一人でも多くの人に知ってほしい。
1200人近くの子どもが「居所不明」になったまま放置されているなど、どう考えても異様な事態だろう。
それでも現状、文部科学省は「学校基本調査をきちんとやるように。所在不明の子どもに関しては、児童相談所や民生委員などの協力を求めるように」といった通達を各地の教育委員会に出している程度。
本気で探そう、対策を講じようという気配はまったくない…。
当然ながら、幼い子どもたちが、みずからの意思で「居所不明」になることなどほとんど考えられない。
親の事情、たとえば借金による失踪や、ドメスティックバイオレンス、外国への出国(親が外国籍で、子どもを連れて母国に帰ってしまう)などが考えられるが、なにしろ当の子どもが見つからない以上、これらはあくまでも「推測」に過ぎない。
また、児童虐待や貧困の問題も無視できない。私が取材したケースでは、派遣労働者の親が仕事を求めて各地を転々とし、一時的に派遣用の寮で生活している例があった。
そうしたケースでは、その都度住民票の移転などむずかしく、結果的に以前の居住地に住民票を残したままになっている。
特例があるとはいえ、基本的に子どもの入学や転校には住民票への登録が必要になるので、住民票を移転しない⇒子どもの学校の手続きができない、ということになる。
そして子どもは、学校にも通えないまま親ともに各地を転々…。まさに「居所」が定まらない状況に陥ってしまう。
少し前、「消えた高齢者」問題がクローズアップされた。戸籍上、住民票上は生きているはずの高齢者が、実は亡くなっており、家族が年金を不正受給していた問題だ。
その一方で、「消えた子ども」については、社会はほとんど関心を持ってこなかった。
幼い子どもたちが、教育を受けることもなく、どこでどんなふうに生活しているのかわからないとは、なんという悲しい事態だろう。
私程度の物書きでは、ほんの小さな一石しか投じられない。それでも、ここにきてようやく一部のマスコミ関係者が関心を寄せてくれるようになった。
5月16日(水)、NHK「あさイチ」で、特集が組まれることになり、私も生出演する。
「消えた子ども~1191人の居所不明児童生徒はどこへ?(仮)」
そしてこれからも、この問題を追いつづけたい。