読者とのひととき
「石川さんの本を読んで、感想を語り合う会を開きたいので、ゲストで参加してもらえませんか」
そんなメールが届いたのは2月の始め。
20代、30代の若い会社員を中心にした会で、私の書いた「ルポ・子どもの無縁社会」を取り上げてくれるという。
うれしぃーーー! でもちょっとドキドキ。
読者からお手紙をいただいたり、ネット書店のレビューを書いていただくことはあっても、リアルで直接感想を聞くのははじめてだ。
開催は金曜の午後8時から、会場は四谷のレンタルスペースで軽食つき。
最初の1時間くらいは私がこの本を書いた理由や取材について話し、あとはみんなで和やかに懇親会、の予定だったけれど、みなさんとっても熱く感想や自分の思いを語ってくださった。
なので予定時間を大幅にオーバーし、気づいたらもう午後10時。
仕事帰りに、お腹を空かせたままで、本当に熱心に「子どもの無縁」という現実を考えていただいて、私も著者冥利に尽きる。
まだ結婚されていなかったり、子どもを持っていない若い人たちが、「子どもの現実」を考えるのは意外とむずかしいと思う。
虐待が多かったり、教育格差が広がっていることなどニュースでは耳にしても、わざわざ本を買って読もうとまでは思えないだろう。
実際、「この本を読むまでは、子どもの問題にはあまり関心がなかった」とか、「私には子どもがいないので、虐待のニュースなんかも見たくない、って避けていた」という声があって、それはそのとおりだと感じる。
それでも私は言った。
「みんな、誰でも、昔は子どもだったはずですよ」と。
私たちは誰しも子どもだった、そのあたりまえの事実をおとなは忘れがちだ。
私たちは、子どものころ、親だけでなく、おじいちゃん、おばあちゃん、近所のおじさん、おばさん、先生、看護婦さん、駄菓子屋さん、…とにかく数えたらキリがないくらいのおとなに守られたはずだ。
道に迷って泣いていたとき、通りすがりの見知らぬおとなが助けてはくれなかっただろうか。
サイフを落としたり、キップをなくしたり、そんな場面でおとなが力を借してくれなかっただろうか。
今、自分に子どもがいる、いない、そんなことは関係ないと私は思う。
世の中のおとなは、みんなかつて子どもだったのだから、自分自身が多くのおとなに守られてきたのだから、自分がおとなになって子どもを守るのはあたりまえじゃないか、そう思う。
そんなことをつい熱く語っちゃって(苦笑)、若い読者との夜は更けた。
「この本が読めて、本当に良かったです」、「たくさんの人に読んでもらいたい本だと思います」、そう口々に言っていただけた。
ああ、この仕事をしていてよかったと、心から思えた夜だった。